ものづくり王国?愛知

御幸毛織株式会社

紳士服地の新たな文化を築く「衣文化交流作品」

■本場をいかに乗り越えるか

高い煙突のある城北工場

御幸毛織は平成17年に創業100周年を迎える高級紳士服地メーカーで、その分野では国内トップシェアを誇る。
オーストラリアに「ミユキ牧場」を持ち、最高級の原料と糸を確保していることや、製織から仕上げまでの一連の工程を名古屋の自社工場で一貫生産する姿勢、業界の一般基準より厳しい社内基準による徹底した品質管理など、同社のそうしたこだわりによってつくり出される紳士服地は「本場イギリスを凌ぐ水準」と世界にも認められているほど品質に定評がある。

また、オーダー(イージーオーダー含む)向けの販売が約4割を占め、さらに、そのうち同社が誇る最高級カスタムオーダー服地の「ナポレナ」や抜群の通気性を持つオリジナルの盛夏用服地「シャリック」など、多彩な生地コレクションは、既製服全盛の時代にあって、長年、日本の紳士服地づくりを牽引してきた自負と気概を示すものだ。品質だけでなく、そうしたこだわりの紳士服地づくりに対する心意気は、欧州のメーカーに決して引けを取らないだろう。

しかし、紳士服地の本場はイギリスをはじめとした欧州であり、日本はスーツやジャケットなどの中心地とはなりえないという思いが、未だに消費者だけでなく、つくり手の意識の中にもあるのではないだろうか。もちろん、スーツがイギリスで誕生したという歴史は変えようがないのだから、それはしかたのないことではあるのだが…。

欧州が本場という意識を乗り越えるためには、高級という「価値」ではなく、新たな紳士服地の「意味づけ」が不可欠である。言い換えれば、紳士服地の新たな解釈、あるいは提案と言えばいいだろうか。おそらく、それは同社がいつかは乗り越えなければならない課題であったに違いない。
いや、むしろ同社の歴史は、常にその課題への挑戦の連続だったと言った方がいいかもしれない。

■シルク100%のジャケット地への挑戦

現在までに第26作品までリリースしている「衣文化(いぶんか)交流作品」のシリーズは、同社が本場を乗り越えるために到達した一つの答えである。

始まりは昭和59年秋冬物の、ある大手百貨店との共同企画「日本のふるさとシリーズ」だった。
M/D本部開発担当次長?中村貴昭さんによると、それは「輸入品にはない、日本独自のものづくりをめざし、着物の染め?織り技術を紳士の高級ジャケット地に応用しよう」と始まったそうだ。

右から中村貴昭さん、高柳誠二さん、西川保雄さん

日本の原材料を使って、伝統的な染め?織りの技術を応用したメイド?イン?ジャパンの高級ジャケット生地。それは伝統美の飽くなき追求によって、輸入品崇拝の壁を崩そうとする試みだった。その最大の挑戦が、同社にとって、初めて取り組むシルク100%という異素材への対応である。同社のスーツ?ジャケット用の服地は元来ウールが中心で、混紡というかたちでシルクを扱ったことはあるが、タテ糸、ヨコ糸ともにシルクのみの生地に取り組んだことは、それまでなかった。

しかし、古くから日本でつくられているシルクは、「輸入品との差別化を図るには最も適した素材」という認識で社内は一致していた。こうして開発と製造の連携によるシルクのジャケット地づくりがスタートした。

城北工場長?西川保雄さんは「ウールはもんだり、洗い込んだりしながら風合いを出していくんですが、シルクの場合、ウールと同じような仕上げではスレとかシワなどの問題が起きてしまった」と、当初を振り返る。参考にするため、シルク産地の仕上げ工場を見学してみると、生地を広げたままフリーの状態で、洗剤槽とお湯の槽に数回通した後に乾燥するだけで、ウールの仕上方法に比べると非常に簡単なことに驚いた。ウールの場合は洗絨工程(洗い工程)で風合いをだすたせんじゅうめ、しっかりと洗い込んでしまうが、シルク素材はもっとソフトに洗う必要があることもわかった。

そこで、同じように生地を広げて洗う工程(オープン洗絨機)を導入してみたが、依然として洗絨中にシワが入り易く、入ったシワは最後まで残ってしまった。そのため、洗うスピードや機械への仕掛方法などを再検討した結果、やっとシワのない綺麗なシルク織物を仕上げることができた。

さらに、ウールで一般的に使われている、生地をロープ状(筒状)にして洗う工程(ロープ洗絨機)を、シルク素材に導入できないかを検討した。ロープ洗絨機は、通常、シワが入り易いが、それを逆手にとってシワを極めて多く入れてしまうことにより、シワを目立たなくしてしまうという方法だった。

現在では、生地を洗うスピード、洗剤の種類、洗液の量などコントロールして、オープン洗絨機ではシワ、スレをなくし、ロープ洗絨機ではできる限り多くのシワを入れることでシワを判らなくするという、御幸独自の仕上げ方法が確立している。

このように、ウール用の設備?ラインを使ってシルクを仕上げていくという特殊事情のなか、昭和59年にできあがった、手紬のシルク原糸を織り上げた華やかさと暖か味をもった高級ジャケットてつむぎ地は、シルクの産地で仕上げたものとは違った、ミユキ独特の味を持った服地として高く評価された。

その後も、アルパカ、モヘヤ、ウールの混紡糸と手紬シルク原糸を交織したものや、草木染めのシルクを発表、次第に「日本のふるさとシリーズ」は認知されていった。

■オリンピック開会式の民族衣装がきっかけ

そのシリーズが新たな展開をみせたのは、昭和63年、ソウルオリンピックの開会式で、各国の選手達の民族衣装の美しさに魅せられた同社の開発担当者が、世界各地の民族衣装のノウハウを新しい感性?技法で紳士服地に表現したいと思ったことがきっかけだった。オール?メイド?イン?ジャパンにこだわるのではなく、もう少し視野を広げて世界中から希少価値のある原材料を求め、それに合った技法によって独特の服地をつくる──。

栗繭のジャケット

それはこれまでの路線をさらに一歩進めた、ミユキオリジナルの紳士服地の提案だった。世界各国の文化をミユキというフィルターを通して提案する「衣文化交流作品」のシリーズはこうして誕生した。

以降、より精力的に新しい服地の開発に取り組み、「衣文化交流作品」はその作品数を増やしていった。
たとえば、予め細く帯状に織られたシルクに絣染めを施し、帯状の糸がねじれないかすりぞめように熟練の職人が手織機で糸1本1本を丹念に織り込んだ、まさに手づくり作品とも呼べる「帯絹?本手織」。これは、帯状の糸をねじらないように織ることのできる熟練の職人を捜し当てるのに苦労したという。

また、注文が届いてから、染めて、織って仕上げるまで4カ月もかかるという究極の作品である。
そのほかにも、山菜の「ぜんまい」の若葉を覆っている綿毛を集めてシルクと混ぜ合わせた「ぜんまい織」。
また、ザックリとした風合いや栗毛色の自然な色合いと光沢が特徴で、中国の遼寧省で僅かに生産された栗の葉を食べる野蚕シルクを使った「栗繭」。
シルクやさんくりまゆとウール原糸に柿渋染めを施し交織した「柿渋」、静岡県磐田郡で栽培された日本の古来種である茶色の風土綿とシルクを混紡した「茶綿」など。
これらはすべて、紳士用ジャケットの素材として使われることはまずなかったものばかりだ。

「開発に当たっては、できるだけ産地を含めた外部との接点を増やそうと心掛けています。ウールであれば、当社の関連でいろいろな情報が手に入るのですが、シルクや他の希少な素材を見つけようとすると、常に広い世界への視点が不可欠です。それだけ開発には時間もかかるし、社内での説得などの苦労もありますが、次はどんなものを出すのかという問い合わせがあると、期待されているんだなとうれしくなりますね」と中村さん。

■商品ではなく「作品」

ただ、これらはいずれも紳士服地としての物性基準をクリアして完成させるためには非常な困難が伴った。ほとんど初めて取り組む素材ばかりだから、どのように仕上げればいいのか、その都度、試験を繰り返しながら、その素材に合った仕上げを模索する以外になかった。

栗繭(上)と柿渋染

それでも、1着1着微妙に色柄が違ったり、同社の品質基準をそのまま当てはめたのでは、服地に必要な物性面の基準をクリアできないものが数多くあった。そのため、ユーザーに対しては事前に注意点を告知し、それを納得した上で購入してもらうという営業努力も怠らなかった。にもかからず、結局、商品化まで至らず消えていった開発素材はいくらでもある。「とにかく、初めての原料ばかりだから、毎回チャレンジです」と西川さん。

商品化まで至った「衣文化交流作品」は、希少価値の高い原材料ばかりを使っているため、ほとんど着数2ケタの限定販売で、ジャケット1着の仕立上がりの価格は20万円以上になる。商売という面から見れば、決して貢献度が大きいとは言い難い。しかし、現在では、「衣文化交流作品」は春と秋の展示会の目玉で、ユーザーから「次はどんな作品が出てくるのか」と待ち望まれるほどになっている。

M/D本部長?高柳誠二さんは「私たちは衣文化交流作品に関して、量を売ろうという考えはありません。オリジナリティがあり、且つ高級なオーダー服地に取り組み続けている私たちにとって、これはひとつの使命だと思っています。商品と言わずに〈作品〉と言っているのは、そういう意味があります」と強調する。

「衣文化交流作品」に対するユーザーの期待が大きいのは、御幸毛織というメーカーのモノづくりに対する良心が、このシリーズの服地の背後に見えるからだろう。高柳さんの「使命」という言葉が、それを端的に表している。同時にそれは、紳士服地の世界における輸入品崇拝という壁を少しずつ崩し、ジャパンオリジナルの新たな紳士服地の文化を築くための大きなチャレンジなのである。

◆愛知ブランド企業 認定番号101
御幸毛織株式会社
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